表現者・星野道夫さん

10月も、もうすぐ終わり。長い雨が続いた後の、晴れ間が嬉しいですね。

 

今月は、ある方から「何のために唄っている?」と訊かれ、また別の方から「唄うことで何がしたいですか?」と尋ねられる機会があり、先日とうとう娘から「唄うことの目的は何?」と訊かれてしまい、どうやらそんなことを考える月、らしいです。

唄うこと、表現すること、の意味を、私なりに考えていたある時。
今はもう退会した(と言っても寄付的に1年間入会していただけの)日本野鳥の会から、気まぐれに冊子"Triino"が送られてきました。そこにあった、一枚の素敵な写真。アラスカの夕暮れの海の黄金の光に照らされた、ザトウクジラの尾。その光、水しぶき、色合い。アングル。今までネイチャー写真にそこまで興味はなかったけれど、その写真はズドンと胸にくるものがありました。魂に響く感じ。星野道夫さんというフォトグラファーは、お名前をぼんやり知っている程度でしたが、俄然気になり始め、彼の著作と写真集(ひとまずは上の写真の作品と、これ以外にも幾つか)を取り寄せました。没後21年、本当に今さらながら。

静かな強さと温かさを感じさせる文章と、風景と被写体への愛を感じる、絵画のような写真の数々。被写体に近づき過ぎないことで、逆にリアリティを持たせていることに感銘を受けました。そして、アラスカに暮らした彼の、おもにネイティヴの人々への視線にとても興味深いものを感じて、私自身も大学で学んだ文化人類学やネイティヴ・アメリカンのこと、フランスのケ・ブランリ美術館で見たトーテムポールetc.を思い出していました。アラスカからカナダ、アメリカのインディアン、そして中南米のインディオの人々のこと。その文化や思想に、今もう一度ぼんやりと、想いを馳せています。そして、気になるのはブラジルの歴史。例えばサンパウロやリオでは、その昔、どんな人達が住んでいたの?と。ポルトガル人に「発見」される前のインディオの人々の歴史は、文字を持たなかったために記録がないということに、今さらながら驚嘆です。歴史や文化は、観る視点を変えれば、全く違うものに見えてくる。私たちが学んできたものなんて、本当に一握りのことなのでしょう。同じモンゴロイドの祖先で繋がるであろう彼らを想うことで、相対的に日本や自分のルーツが浮かび上がってくるような気もしています。...なーんて、そんな大げさなことでもないけれど、時々こんなふうに視野をドドーンと広げてみるのも、わるくないと思うのです。自分の周りの世界だけを近眼視して日々のルーティーンに追われていたら、何処に向かっているのか、わからなくなりますからね。

そんな訳で、クマやアザラシが好き!とか、アラスカに行きたい!ということではなく、星野さんその人の、表現者としての横顔に心打たれたのかもしれません。旅をしたり、本を読んだり、人と語り合ったり、感じたり、思考したりして、その先に初めて「表現」があるのかなと。日々を生きて、はじめて。Stevie Wonderも、そう言ってました。音楽そのものだけでは、表現できないと。

スマホばかり見ていないで、隙間時間にでも「思考」、していかなきゃね。流されないように。

 
「物語の持つ力とは、それを語る人間の内なる世界観に深く関わっている」。

 星野さんのこの言葉が、大きなヒントになりました。感謝。